ネタバレがありますので、見る予定のある方は、読まないでください。
最近バットマン映画からは遠ざかっていたのですが、ジャック・ニコルソンのジョーカーが強く印象に残っており、好きな悪役の一人となっていたので、ヒース・レジャーのジョーカーはいかほどなものか見てやろうという思いから、鑑賞に行きました。
正直なところ、気持ちがすっきりするような映画ではありませんでした。そもそもバットマンは、ヒーローでありながら、ダークな面が強いわけですが、MRフリーズの逆襲とか、普通のブレイクバスター映画的なものもあったわけで、私としても、どうせ悪を倒してめでたしめでたしという感じなんだろうなと思っていたので、裏切られてしまいました。
ヒース・レジャーのジョーカーは、本当にいかれた犯罪者風で、落ち着きのない言動や、セリフの端々でよだれをすするような音をだすなど、生理的に嫌悪感を感じさせるような演技はすごかったです。
そして、その行動は、バットマン側に感情移入をしている観客としては、裏をかかれ続けるもので、しかも、最終的にもすっきりしないまま、悪の健在をアピールし続け、決して安心させません。
そのいかれっぷりは、最近で言うと「ノーカントリー」のおかっぱ殺人鬼であるシガーを彷彿させますが(そういえば、ハービー・デントがコインを使っていたのも、シガーを思わせます)、ジョーカーは一般人の恐怖心をもてあそんで、更なる混沌を生み出そうとする点で、より悪質であるといえます。
また、バットマンが信頼を寄せていた新任検事も、愛する者を奪われたショックと、ジョーカーの言葉巧みな誘導によって、ルールを超えて復讐に及ぶ鬼と化してしまいます。
弁護士として、ジョーカーのような被告を弁護することとなったら、本当に大変だろうなと思いました。それでも、その被告の言い分を適切に法廷に検出しなければならないとは思いますが、到底裁判員の納得は得られないでしょうね・・・。その点、ハビー・デントの方は、同情の余地はありますが、ゴードンの家族にまで手を出そうとする点はやはり逆恨みといわざるを得ないと思います。
この映画をみて、人はそもそも破壊的な欲動を持っており、文化や教育によって、そういった欲動を押さえるように教化され、生きているものの、そういった社会生活のルール自体に意義を見いださず、「自由」に欲動の赴くままに行動する人間が出た場合、そういった人間を止めるためには、暴力以外の方法がないと考えられるが、その人間を暴力をもって制した場合、結局は、相手と同じくルールを破ってしまっているという矛盾に陥ってしまうのではないかなどと考えたりしました。バットマンが、ジョーカーを捕まえいたぶっている際に、「そのまま殺してしまえ」と思ってしまう自分に気付いた時には、その暗い衝動に我ながら驚きを禁じ得ませんでした。
また、如何に、現代社会がそこで生活する者のお互いの信頼の上になりたっているのかということ(私があなたを殺さないから、あなたも私を殺さないでねといった信頼)、そして、その信頼の基盤は如何に脆いものかということも(だれでもいいから人を殺したかったという人が多数をしめれば、経済活動や社会活動などは麻痺せざるを得ない)、昨今の事件を思い出しながら考えさせられました。
一方で、ジョーカーから爆発予告をされた2隻の船が、相手を爆破すれば助けてやると言われながらも、最後まで爆破ボタンを押さなかったこと、孤独なバットマンでも、その周囲には彼を支えてくれる少ないながらも優秀な人々がいてくれていることが、数少ない救いとして描かれていました。
確かに、人間は弱く、残酷な面もあるかもしれないが、それでもなお、互いを信頼することができ、利他的な思いや本能的な道徳感情を有しているのではないかという淡い期待を抱きながら、かつ、それを自ら実践していくことが、ジョーカーのような悪に負けない生き方になるということでしょうか。
ともあれ、演技面でも、映像面でも、ストーリー面でも、一件の価値はありますので、ご覧になってはいかがでしょうか?
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